英国中央銀行(バンク・オブ・イングランド=BOE)は2009年3月から実施している
量的金融緩和政策を一歩前進させ、 8月6日、
中央銀行が買い取る資産(主に英国債)の規模をこれまでの1,250億ポンド(約20兆円)から1,750億ポンド(約28兆円)に拡大しました。
これはどういう意味なのか説明しましょう。
この決定に対する見方は市場で二分されています。
ひとつは「最近の住宅化価格の下げ止まり・株式市場の急回復などを見ると、景気は確実に回復基調なので一段の金融緩和は必要ない」という見方です。この人たちはいわゆる「強気派」で、今回のBOEの決定を意外なものととらえています。
もう一方は、「英国の金融業界の膨張・住宅バブルは米国を上回る規模に達していたため、その揺り戻しは非常に大きくなることが予想されるので、一段の金融緩和は当然」と考える人たちです。この人たちはいわゆる「弱気派」です。
これまでのところ「強気派」は主に株式市場に多いようで、今回の決定を受けて「一段の金融緩和は流動性供給を通じて投機・ミニバブルを煽る」との期待から「株式市場は一段の上昇」と見る人がかなりいるようです。一方の「弱気派」はあまり注目されませんでした。
ではBOEはどちらの立場かと言えば、かなり強力な「弱気派」のようです。報道によれば、BOEのキング総裁は12日(水)に発表される「四半期インフレ報告」の中で「
日本化のリスクがある」と明記するようです。
「日本化」というのは、要するに1990年代に日本が経験したような「長期不況」です。この長期不況は日本人が一番良く分かっていますが、時々「循環的」に景気が回復するものの、それがピークに達すると今度は前回の景気下降局面よりもさらに厳しい後退となり、結局景気の上下動を繰り返しながらもずぶずぶと下降していくというものです。
キング総裁はそのリスクをはっきりと認識しており、相当に日本で起きたことを研究しています。英国の不動産価格は2000年から2007年までに2倍以上に上昇し、その上昇率は年率で13%以上になっていました。不動産価格は理論上、名目GDPの伸びと同じ程度が望ましいのですが、この間のGDP成長率はせいぜい5%程度ですから、不動産は明らかにバブル化していました。この上昇率は同時期に起きた米国のバブルとほぼ同程度ですが、米国が2006年中頃にピークを打ったのに対し、英国は2007年夏まで上昇がつづいています。
そのバブルが弾けた今、これまでに不動産価格はピークから2割以上下落、既に4大銀行のうち2行が国有化されています。ただここまで下がっても、十分とはまだいえないというのが筆者を含めた「弱気派」の見方です。実は、米国の不動産価格はGDPとの比較で見た場合、2000年の水準までほぼ戻っています。それに対して英国はまださらに25%ほど下がらないと2000年の水準まで戻りません。
この「日本化」リスクは日本の金融関係者はリーマン・ブラザーズ破綻前後から指摘して来ました。
日銀の白川総裁も「『偽りの夜明け』が何度もあった」と日本の90年代を表現し、欧米の当局者に警告しています。 こうした指摘はいまのところは「強気派」に完全に無視されています。とくに4-6月期のいわゆる「勝ち組金融機関」(ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェース、HSBC、等)の好決算が彼らの追い風になり、「景気のV字回復は確実」という見方がすべての市場に織り込まれています。
ただ、日本の歴史を振り返ると、日本株もバブルが弾けた最初の底値をつけた92年8月から、翌4月までの間に約50%の回復を見せました。そしてこの時つけた高値を完全に超えたことはこれまでの16年間一度もありません。日本経済は世界の景気循環と歩調を合わせる形で、96年、2000年、2006年の3 回「景気回復のピーク」を経験していますが、いずれも市場は1993年につけたピークを完全に越えることはできていません。
いずれも白川総裁の表現を借りれば「偽りの夜明け」で、毎回毎回「もうこれで不況は終わり」という声があがるものの、生活はまったくよくならないという繰り返しでした。 おそらく現在世界の中でこうした「日本化」のリスクが最も高いのは英国です。製造業はとっくの昔に競争力は完全に失い、80年代の金融業に依存する体質が出来上がっています。
逆に言えば、今後景気が期待はずれに終わり、ここ数ヶ月のよい雰囲気が「偽り」であると多くの人が考え出した時、英国に対する悲観論がもっとも盛り上がる可能性が高いと言うことです。そうした意味で英ポンドは下落のリスクが高いです。昨年並みの大幅な下落の可能性もおおいにありえると警戒
すべきです。
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